チームみらいは誰の声を聞いているのか——オードリー・タンとの分岐点

チームみらいは「Plurality(多元性)」を重要な指針として参照している。台湾の初代デジタル発展省大臣オードリー・タンと経済学者グレン・ワイルが提唱した、デジタル技術で民主主義を拡張する社会哲学だ[1]。2025年10月には安野貴博が超党派勉強会にタンをオンライン講師として招いた[2]。GitHubでマニフェストを市民が編集し、ブロードリスニングで意見を可視化する[3]。テクノロジーで政治を変える。
看板だけ見れば、同じ方向を向いているように見える。
でも、同じツールを使っていても、設計思想が逆なら、まったく違うものができあがる。
テックライトではない、しかし
まず前提を整理する。チームみらいは「テックライト」ではない。
テックライト——テクノロジーへの絶対的信頼と右派的政治観を結合した潮流。ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンは2023年に投稿した「テクノロジー楽観主義者のマニフェスト」という文章の中で「We believe」を113回繰り返し、加速主義の父ニック・ランドとイタリア未来派の主導者である詩人F・T・マリネッティを「守護聖人」として挙げた[4]。シリコンバレーの投資家ピーター・ティールは「民主主義と自由は両立しない」と公言し、海上に人工島を建てて既存国家の法から逃れる構想に出資し、トランプ政権ではJ・D・ヴァンスを副大統領候補に押し上げた。テクノロジーで民主主義を迂回するか、政治権力そのものを握るか——手段は変わっても、選挙で決まるルールに縛られたくないという志向は一貫している[5]。歴史家スザンヌ・シュナイダーはこの潮流に対して、ヤニス・バルファキスらの提唱した「テクノ封建制」概念を当てはめた。もはや「政府からの自由」ではなく「民主的国家の奪取と解体」だと[6]。
チームみらいの知的参照先は、このラインではない。安野のSF小説はAI権威主義を批判的に描いている[7]。また、規制の全面撤廃ではなく限定した地域や条件のもとで新技術を試験的に運用するサンドボックス方式での運用を提唱している[8]。GitHubマニフェストは参院選期間中に8,559件のプルリクエストを集めた[9]。民主主義の迂回ではなく拡張を志向している——少なくとも、表面上は。
ただし、消費税減税の不採用、高齢者医療費の自己負担3割引き上げ、原発25基以上の稼働目標、防衛費増額を含む補正予算への賛成[10]。経済右派的な色彩は濃い。テックライトの思想ではないが、テックライトと重なる政策はある。
エキストリームセンターという補助線
チームみらいについて考える際に押さえておきたいのはむしろ、テックライトではなくエキストリームセンターの概念だ。
パキスタン系イギリス人の作家・活動家タリク・アリが『The Extreme Centre(極中道)』(2015年)で論じたのは、1989年以降の主流政治が「市場のニーズにどれだけ応えられるかの競争」に収斂したということ[11]。トニー・ブレアの「第三の道」が典型だった。左派政党が新自由主義の基本前提を受け入れ、「What matters is what works(大事なのは何がうまくいくだ)」を合言葉に、イデオロギーより効率性を前面に出す。左右の対立軸は消え、どちらが勝っても同じ経済政策が続く。
2025年9月、社会学者の酒井隆史・山下雄大編『エキストリーム・センター』が以文社から刊行された[12]。帯のキャッチコピーは「中道がファシズムを準備する」。この本が重要なのは、エキセンが日本にとって「輸入概念」ではないことを示しているからだ。編者の酒井は、この概念が日本で長く知られなかった理由を「該当しないからではなく、過剰に該当するがゆえに」だと述べている[13]。空気が存在していることに気づかないのと同じだ、と。
酒井の要点はこうだ。1996年の日本社会党の消滅以降、日本では「別の世界は可能である」という可能性の地平が消えた。にもかかわらず「中道」を名乗り続ける。価値や理念に固執すること自体がバカにされ、「右でも左でもなく」「イデオロギーにこだわらず」という枕詞なしには語れない空気が蔓延した。酒井はこれを「エキセン構文」と呼ぶ[13]。
チームみらいのスローガン「対決より解決」は、この「エキセン構文」のテクノロジー版だ。「感情ではなく、データと事実で語ります」[15]はブレアの「What matters is what works」の類型であり、安野の「A案かB案かじゃなく、C案を見つけたい」は、「右でも左でもなく、データで」という構文になる。
ケンブリッジ大学の政治学者ビッカートンとアチェッティはこの現象の現在形を「テクノポピュリズム」と名づけた[14]。テクノクラート的能力の主張(「我々は正しい答えを持っている」)とポピュリスト的直接民主主義の修辞(「市民の声を直接聞く」)を結合する政治形態。既存の代表制を「古い政治」として否定しつつ、テクノロジーと直接対話で代替すると約束する——だがその「直接対話」の設計・運用・解釈はすべて党が握る。
酒井が指摘するように、「極中道」は左右の「あいだ」に位置するのではなく、左右を「超越」する。その超越性が自らの絶対的正しさを保証する——絶対的に正しいものはないと言いながら、自らが誰よりも正しくいられるポジションだ[13]。政治哲学者シャンタル・ムフの言葉によれば、こうした「超越」は政治的対立を消去し、処理できない情念がナショナリズムの回路へ流れ込む条件を作る[16]。
チームみらいのスタンスを見てみる。NHK調査で同性婚に「どちらともいえない」[17]。Marriage for All Japanのアンケートでは、期限内に無回答[18]。選択的夫婦別姓は「有力な考え方」としつつ留保[19]。「みんなの声を聞いてから決める」は、マイノリティの権利がマジョリティの合意に依存する構造を作る。
「中立」は、現状が差別的である場合、現状維持の側に立つことになる。
「データドリブン」のインターフェースデザイン
前回の記事で書いたLLMのイデオロギー問題は、チームみらいの方法論にもそのまま当てはまる。
LLMが「中立」を装うとき、訓練データの選定、RLHFの設計、システムプロンプトの記述——無数の判断が「自然な」出力の背後に隠れる。同じように、「データドリブン」が「客観的」を装うとき、何を測定するか、何を最適化するか、誰の声を集めるか、どう重みづけるか——本質的に政治的な選択が技術的中立性の背後に隠れる。
2025年6月に起きた「喘息レセプトデータ」をめぐる議論は、この構造を可視化した。安野が提案した喘息治療のレセプトデータによる受診行動評価は、限られたデータから患者行動の「適切さ」を判定できるという前提そのものが医療専門家から批判された[20]。「みんなの声を聞く」を掲げる党が、臨床現場の知見を十分に反映しないまま政策を組み立てた。データ駆動的推論が領域の専門知を欠くとき、当事者を傷つける。
チームみらいのもうひとつの主力ツール「AIあんの」も同じ構造を抱えている。安野貴博のAIアバターがYouTube LiveやLINEで市民の政策質問にリアルタイム回答するシステムで、参院選では14日間で2万件超の質問に応答した[21]。仕組みはこうだ。マニフェストや過去の発言をデータベースに入れておき、質問が来ると関連する部分を検索して、それを元にAIが回答を生成する(RAG=検索拡張生成と呼ばれる手法)。しかし、政策見解が「どちらともいえない」の場合——たとえば同性婚——AIがどの情報を拾ってどう答えるかは予測困難になる。安野自身が「変な発言をするリスクは残る。しかし、AIを通じてどれだけ多くの人とコミュニケーションできるかと比較し、進めるべきと判断した」と述べているように[22]、これはリスクを認識した上でのトレードオフ判断であり、チームはそれを隠してはいない。外交・他候補への評価など敏感な質問には「学習中です」の回避応答を設定し、回答不能な質問を安野本人が手動でフィードバックする体制を取った。
だが問題の核心はトレードオフの巧拙ではない。「AIあんの」が2万件の質問に応答し、ブロードリスニングが100万件のX投稿を分析するとき[23]、「多くの市民の声を聞いている」という実感が生まれる。その実感は本物だ。しかし政治哲学を曖昧にしたまま「みんなの声を聞く」を名乗ることは、民主性の保証ではなく責任回避の装置になりかねない。データの量は判断の質を保証しない。
Pluralityの分岐——返信ボタンのない設計と、LLMの設計
チームみらいとオードリー・タンの最も決定的な差異を理解するには、双方の技術的なアプローチを見る必要がある。
タンの設計思想——Pol.isの「返信ボタンなし」
オードリー・タンが自称する「保守的アナーキスト」は、テクノロジーに対する態度の宣言として読める[24]。「保守的」は西洋的な政治的保守主義ではなく、中国語の「持守」——インターネットをコモンズとして保全し、漸進的で非破壊的な変化を追求すること。「アナーキスト」は反政府ではなく、トップダウンによる強制を退ける立場を意味する。これは老子の「無為」に接続する[25]。
タンは、20世紀アメリカの建築家・思想家バックミンスター・フラーの「トリムタブ」の比喩を好んで引く。巨大な船の舵を直接動かすのではなく、舵についた小さなタブを動かすことで、全体の方向を変える[26]。
知的系譜には哲学者・柄谷行人がいる。柄谷は国家による再分配でも市場の交換でもない、第三の社会編成原理(「交換様式X」)を構想した[27]。ワイルの『ラディカル・マーケット』(2019)も同じ方向を向いている。たとえば、すべての資産に自己申告で価格をつけさせ、その価格で誰でも買い取れる仕組みにすることで、所有の独占を構造的に崩す。投票でも、一人一票ではなく、関心の強さに応じて票数を配分する仕組みを提案した[28]。どちらも、市場メカニズムを使いながら権力と所有を根本から再分配しようとする思想だ。
つまりPluralityの思想的核心は、テクノロジーによる権力の分散にある。テクノロジーで統治を効率化することではない。
この思想が最も精密に実装されたのが、台湾の市民参加プラットフォームvTaiwanの技術基盤であるPol.isだ。Colin Megill、Christopher Small、Michael Bjorkegren の3人のエンジニアが開発したこのプラットフォームには返信ボタンがない[29]。
TwitterやRedditのようなSNSでは、誰かの発言に「返信」する機能が実装されている。一見自然な設計だが、これが荒らしと分断を生む。挑発的な投稿に反論が殺到し、炎上がコンテンツとして消費される。Pol.isはこの構造を根本から変えた。参加者は短い意見を投稿できるが、他人の意見には「賛成」「反対」「パス」の三択で投票するしかない。返信がなければ挑発は増幅されない。
この設計がもたらす効果は三つある。まず荒らしの無力化。次に、情報構造の転換。通常のスレッド型議論では情報がツリー構造の中に埋没し、議論が深まるほど見えなくなる。Pol.isでは全参加者の全意見への賛否が巨大な一覧表(投票行列)として保存され、情報の損失がない。そして最も重要なのが合意形成の力学の逆転だ。この投票パターンをもとに、機械学習が「似た投票をしている人たち」を意見グループとして自動生成する。対立するグループの双方から高い賛同を得る意見——「ブリッジング・ステートメント」(橋渡しの言説)——が自動的に浮上する。分断的な意見は注目されず、合意を架橋する言説だけが可視性を獲得する。タンの表現では、Pol.isは「人々を分極化させて注目を搾取するのではなく、自動的に橋渡しの言説を駆動するソーシャルメディア」だ[30]。

2015年のUber規制議論はこの設計思想の典型的な成果を示した。Uber推進派・反対派が当初は対立していたが、Pol.isの力学によって「乗客安全」「賠償責任保険」など全グループ共通の関心事項に議論が収束し、7つの合意声明が生成された。「双方向評価システム」には95%が合意した[31]。vTaiwan全体では12件以上の法制化に関与した[32]。
ここで決定的に重要なのは、Pol.isがAIによる文章読解を一切使わないということだ[33]。投票の数値パターンだけでグループ形成と合意点抽出を行う。使っている数学は統計的手法(主成分分析とK-means分類)で、ChatGPTのようなLLMとは原理が全く違う。だからハルシネーションの余地がない。何語で書かれた意見でも投票パターンは同じように処理できる。そしてリアルタイムで参加者が投票するたびに「意見の地図」が更新される、生きた審議プラットフォームだ。
マスクマップ(2020年)は同じ設計思想の行政実装だ。台湾政府が健康保険データベースの薬局在庫情報を3分ごとに更新されるオープンデータAPIとして公開し、台湾の市民エンジニアコミュニティg0v(ガヴゼロ)のハッカーが72時間以内に130以上のアプリを独立に構築した[34]。政府はデータとAPIを提供し、何を作るかは市民が決める。市民はクライアントではなく開発者になる。
チームみらいの設計思想——LLMが全段階に入る
チームみらいのブロードリスニングの技術基盤であるTalk to the City(T3C)は、表面上はPol.isに似ているが、中身が根本的に異なる[35]。
T3Cはカリフォルニアの非営利研究組織AI Objectives Institute(AOI)が開発したオープンソースツールだ。やっていることを平たく言うと、大量のテキスト(Xの投稿やYouTubeのコメントなど)をAIに読ませて、「こういう意見のグループがある」という地図を自動で作る。具体的には6段階のパイプラインで動く。まずテキストを取り込み、GPT-4やClaudeなどのLLMが「この投稿はこういう主張をしている」と個別の意見を抽出する。次に各意見を数値ベクトル(意味の座標のようなもの)に変換し、似た意見が近くに来るように2次元の平面に圧縮して配置する。そこから密集している塊を自動検出してグループ化し、最後にGPT-4が各グループに「これは○○についての意見群です」と人間にわかるラベルを自動生成する[36]。
Pol.isが投票の数値パターンだけで動くのに対し、T3Cはこの全段階でLLMに頼っている。意見の読み取り、分類、グループ分け、名前付け——すべてがAIの文章理解を通過する。これは二つの根本的な違いを生む。

第一に、Pol.isは「いま参加している人たち」がリアルタイムで議論する場だ。投票するたびに合意の地図が更新される。T3Cは「すでに書かれた文章」を後から分析するツールだ。参加者は完成した地図を見ることはできるが、地図ができる過程に参加しているわけではない。つまりPol.isは議論のプラットフォームで、T3Cは分析のツール。タン自身が2025年のWIRED Japan取材で「Talk to the Cityの現在の状況は、9年前のPol.isの状態に似ている」と述べている[37]。
第二に、LLMに頼るということは、LLM固有の問題がそのまま入ってくるということだ。前回の記事でも書いた通り、LLMには安全性チューニングによる偏りがある。政治的に微妙な意見が「穏当な」表現に書き換えられたり、一つの複雑な主張が「賛成」と「反対」の二つに分割されて文脈が失われたりする。たとえば「刑務所を出た後の生活は困難だが可能」が、「困難だ」と「可能だ」の対立する2主張に分割されたケースが報告されている[38]。LLMの「中立性」を問題が、意見分析の基盤そのものに埋め込まれていると言える。
チームみらいはT3Cを少なくとも4つの場面で使用した。2024年都知事選ではXの約100万件の投稿を分析(X Developers Pro API、月額約80万円)、日本テレビと提携した2024年衆院選では地上波で世界初とされるブロードリスニング活用を実現、東京都の「新・東京2050ビジョン」策定ではGovTech東京のアドバイザーとして参画、2025年参院選でも使用した[39]。結果は地図のような2D散布図として表示され、大テーマからグループ、サブグループ、個別の引用まで掘り下げて確認できる。元の発言まで辿れるこのトレーサビリティは、LLMの誤読によるリスクを軽減する重要な設計判断だ。
二つのモデルの構造的差異
こうして並べると、同じ「市民の声を聞く」テクノロジーでも、設計思想が異なることがわかる。


Pol.isでは市民が能動的に議論に参加し、投票のたびにリアルタイムで合意形成の地図が更新される。ブリッジング・ステートメントは参加者の行動から自動的に浮上する。AIによる文章解釈は介在しない。プラットフォームは市民の行為を構造化するが、内容を解釈しない。
T3Cでは、LLMが市民の発言を事後的に解釈し、抽出し、分類し、要約する。市民はデータの提供者であり、分析プロセスの参加者ではない。「何が語られたか」はLLMのフィルタを通過した後に可視化される。
同じ差異がマニフェスト編集にも現れる。台湾のJoinプラットフォームは60日以内に5000署名で政府回答義務が生じる請願制度であり、登録ユーザー1,050万人(人口の約半数)を擁する10年超の実績がある[40]。チームみらいのGitHub方式は、変更履歴が完全に追跡可能であり、技術的な透明性は高い。ただし方向が違う。Joinは市民の要求に政府が応答する制度的義務を生成するが、GitHubマニフェストは市民の提案を党が選択的に採用するプロセスだ。
そして「プッシュ型支援」。チームみらいの行政改革提案の核心は、マイナンバーに紐づいた所得・属性データをもとにAIが個人の状況を分析し、「あなたの世帯はこの給付金の対象です」と先回りして届ける仕組みだ[41]。これ自体は「申請主義」の壁に阻まれている人々(制度を知らない、手続きが難しい、窓口に行けない人々)にとって有益な改革であり、マスクマップの「政府データ+市民技術」モデルとの連続性もある。しかしマスクマップでは政府がAPIを開放し市民が実装したのに対し、プッシュ型支援では政府がデータを保持しAIが判断し市民に届ける。
参加のファンタジー
アメリカの政治理論家ジョディ・ディーンの提唱した「コミュニケーション資本主義」という概念がある。デジタル参加が民主主義の価値——アクセス、包摂、討議——を「物質化」するが、実質的な政治的変化にはつながらないメカニズム[42]。「政治の複雑性——組織化、闘争、持続、決断、分裂、代表——が、一つの技術的解決策に凝縮される」[43]。
GitHubの市民提案。ブロードリスニング。「参加した」という感覚は確かに生まれる。
しかし、目を向けるべきなのはその「参加」の実態だ。参院選期間中に提出された8,559件のプルリクエストは、2024年都知事選(104件)の約80倍に膨れ上がった[44]。AIチャットボット「いどばたシステム」がGitHub操作の知識なしにPR作成を可能にしたことで、入力のスケーリングには成功した。しかし、2025年参院選における正確な採用件数は公開されていない。チーム側自身が「選挙期間中に精査して反映するか否かを判断しきれなかったものが多く残ってしまった」と認めている[45]。入力をAIで拡張するのは容易だが、判断の人間ボトルネックは解消されないというスケーラビリティの非対称性が明らかになった。
処理パイプライン自体は洗練されていた。AIによるカテゴリ自動ラベリング、専門チームへの振り分け、ChatGPT/o3による提案クラスタの要約レポート生成、Devin.aiによる特定基準での提案抽出、そして政策スタッフによる最終レビュー[46]。しかし同一箇所に矛盾するPRが集中した場合は、スタッフが全PRを人力で読み統一提案を新規作成する「力技」が必要だった。そして判断権限はどの段階でも明確にチームみらいが保持する。意思決定は既存政党と同様にチームみらいで行う。責任を取れる『人』が主体となって判断をすることが重要だという[47]。
市民提案がマニフェストを変えた具体例はある。v0.1に存在しなかった「福祉」カテゴリの新設、「行政改革」から「くらしと行政」への改称、給付型奨学金政策の新設[48]。市民提案が政策を動かした実例ではある。しかし、同性婚や選択的夫婦別姓のように政治的に鋭い論点が、8,559件の提案プロセスの中でどう扱われたか——採用されたか、保留されたか、却下されたか——は見えない。
ベラルーシ出身のテクノロジー批評家エフゲニー・モロゾフの言い方を借りれば、「ソフトウェア開発者の参加というレンズのみを通して政府を見ることは、民主的制度と社会契約の双方を損なうリスクがある」[49]。
テクノロジーは透明ではない(もう一度)
テクノロジーの「透明さ」の裏側を読む、というのがこのニュースレターのやりたいことだ。
GitHub、ブロードリスニング、プッシュ型支援、Talk to the City。どれも技術的には「開かれた」ツールだ。オープンソースであり、市民参加を謳っている。しかし、そのアーキテクチャが実際に権力をどの方向に流すかは、ツール自体を見ただけではわからない。Pol.isの返信ボタンの不在がブリッジング・ステートメントを構造的に生み出すように、設計の微細な選択が政治的帰結を決定する。テクノロジーは既存の権力構造をより効率的にするのか、それとも権力そのものを再分配するのか。この問いに対する答えは、技術の選択ではなく、設計思想にかかっている。
公正を期して言えば、チームみらいのすべてが「逆向き」なわけではない。政治資金可視化ツール「みらいまるみえ」は、1円単位の全支出をリアルタイムでオンライン公開し、サンキー図による資金フロー可視化、全データのCSVダウンロードを可能にした[50]。コードはGNU AGPLで党派を問わず利用可能で、自民党所属議員からも「全議員に義務化すべき」と評価された。透明性のツールとしては、まっすぐに権力の可視化に向かっている。
もっとも、タンのモデルも無批判に受容されるべきではない。台湾の同性婚法制化はPol.is的なコンセンサスプロセスを経ながら、異性間婚姻よりも弱い法的保護に帰結した。コンセンサス志向の限界は、タン自身のモデルにも内在している。T3Cについてもタン自身が「まだハイプカーブの途中」と認めている[37]。
Pluralityの看板を掲げること自体は、何も保証しない。問題は常に設計思想の側にある。
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脚注
[1] オードリー・タン、E・グレン・ワイル『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』山形浩生訳、ライツ社、2025年。原著: E. Glen Weyl & Audrey Tang, Plurality: The Future of Collaborative Technology and Democracy, 2024. https://www.plurality.net/
[2] 安野貴博「AIと民主主義に関する超党派勉強会」(2025年10月15日)。https://www.youtube.com/watch?v=C8_PzKO0Y-o
[3] チームみらい公式「マニフェストv1.0」GitHub. https://github.com/team-mirai/policy
[4] Marc Andreessen, "The Techno-Optimist Manifesto," 2023年10月16日。ニック・ランド(暗黒啓蒙の設計者)とマリネッティ(ファシスト宣言の共著者)を「Patron Saints of Techno-Optimism」に列挙。https://a16z.com/the-techno-optimist-manifesto/
[5] ピーター・ティールの政治的軌跡については Max Chafkin, The Contrarian: Peter Thiel and Silicon Valley's Pursuit of Power (Penguin Press, 2021) を参照。
[6] Suzanne Schneider, "Stop Calling Them Libertarians: How the Tech Right Learned to Love the State," Illiberalism.org(ジョージ・ワシントン大学IERES非自由主義研究プロジェクト), 2025年12月22日。テックライトの本質をリバタリアニズムではなく国家権力への依存と捉え、ヤニス・バルファキスらの「テクノ封建制」概念を当てはめて論じた。https://www.illiberalism.org/stop-calling-them-libertarians-how-the-tech-right-learned-to-love-the-state/
[7] 安野貴博『サーキット・スイッチャー』(新潮社, 2023年)および『シークレット・プロンプト』。AI倫理・AI権威主義を主題とするSF小説。
[8] チームみらいマニフェストv1.0「自動運転特区」「予測市場のサンドボックス」等の規制改革提案。https://policy.team-mir.ai/
[9] NISHIO Hirokazu「チームみらいの社会実験『しゃべれるマニフェスト』から得られた知見」note, 2025年10月2日、https://note.com/nishiohirokazu/n/nb35e8d526fd4
[10] しんぶん赤旗「『チームみらい』どんな党か」2026年1月31日。補正予算賛成、高齢者医療費3割負担、原発25基以上稼働等の政策を報道。https://www.jcp.or.jp/akahata/aik25/2026-01-31/2026013102_05_0.php
[11] Tariq Ali (2015). The Extreme Centre: A Warning. Verso Books.
[12] 酒井隆史・山下雄大編(2025)『エキストリーム・センター』以文社。ピエール・セルナ、デヴィッド・グレーバー、アルベルト・トスカーノ、菊地夏野、林凌らの論考を収録。セルナの引用は同書所収「21世紀の最初の四半期にあって極中道をいかに定義すべきか」より。https://www.ibunsha.co.jp/books/978475310396_6/
[13] 酒井隆史インタビュー「政治と社会運動に広がる、エキストリーム・センター(極中道)思想」人民新聞、2026年1月5日。https://note.com/jinminshinbun/n/n780419964d8f
[14] Christopher Bickerton & Carlo Invernizzi Accetti (2021). Technopopulism: The New Logic of Democratic Politics. Oxford University Press.
[15] チームみらい公式サイト・選挙演説における安野貴博の繰り返し使用するフレーズ。https://team-mir.ai/
[16] シャンタル・ムフ『政治的なものについて――ラディカル・デモクラシー』酒井隆史監訳、篠原雅武訳、明石書店、2008年。
[17] NHK「参院選2025」候補者アンケートにおける安野貴博個人の回答では、同性婚に「賛成」としている(NHK「参議院選挙2025 候補者アンケート」東京選挙区、https://news.web.nhk/senkyo/database/sangiin/2025/survey/55148.html)。一方、NHK「衆院選2026」政党政策アンケートでは、チームみらいは党として同性婚を法律で認めることについて「どちらともいえない」と回答している(NHK「衆議院選挙2026 政党 政策アンケート」、https://news.web.nhk/senkyo/database/shugiin/2026/survey/touhakaitou.html)。
[18] Marriage for All Japan「各政党への公開質問状」2025年参院選・2026年衆院選の両方でチームみらいは期限内に無回答。無回答は他に参政党・日本保守党。https://www.marriageforall.jp/topics/6206/
[19] チームみらいマニフェストv1.0「ジェンダー・多様性」項目。選択的夫婦別姓を「有力な考え方としつつ、国民の声を集めて多角的に検討」と記載。https://policy.team-mir.ai/policies/childcare/sections/11
[20] 安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】「喘息治療薬に関する政策検討の投稿に対するお詫びと訂正」 2025年6月。医療専門家からの批判を受けて撤回・謝罪。https://note.com/annotakahiro24/n/n5765c890b00e
[21] 「『チームみらい』の政策質疑応答システム『AIあんの』をめちゃめちゃ紹介します」(安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】、2025年7月18日公開)。https://note.com/annotakahiro24/n/n4ec669d391dd
[22] 安野貴博インタビュー。Diamond Online「都知事選5位・安野貴博氏が語る生成AIの未来」2024年。リスク認識とトレードオフ判断に言及。https://diamond.jp/articles/-/351541
[23] 安野たかひろスタッフ「都知事選で使ったブロードリスニングの技術で衆院選を解析してみた」, 2024年10月26日。都知事選時のX投稿分析についても言及。https://note.com/annotakahiro24/n/ndd21a8ba3eec
[24] France 24, "Taiwan's 'conservative anarchist' transgender cabinet member," 2020年6月26日。https://www.france24.com/en/20200626-taiwan-s-conservative-anarchist-transgender-cabinet-member
[25] 幻冬舎ゴールドオンライン、2021年4月13日公開。オードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)からの抜粋・再編集記事。https://gentosha-go.com/articles/-/33369
[26] タンはバックミンスター・フラーの「トリムタブ」比喩を繰り返し引用。「オードリー・タンとの対話 #3 自分自身を『代表』すること」(2023年9月インタビュー、2024年6月17日公開)等で言及。https://distance.media/article/20240617000233/
[27] タンは柄谷行人『トランスクリティーク』や交換様式Xに複数のインタビューで言及。オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』プレジデント社、2020年。また四方幸子によるインタビュー「オードリー・タンとの対話——11のキーワードで紐解くデジタル・テクノロジー・社会|後編」ヒルズライフ。https://hillslife.jp/series/ecosophic-future/dialogue-with-audrey-tang-2/
[28] エリック・A・ポズナー、E・グレン・ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』安田洋祐監訳、遠藤真美訳、東洋経済新報社、2019年。
[29] Pol.isの設計については Colin Megill, "The Evolution of the Pol.is User Interface," pol.is blog, April 29, 2016. https://blog.pol.is/the-evolution-of-the-pol-is-user-interface-9b7dccf54b2f 返信ボタンの意図的排除については The Computational Democracy Project, FAQ. https://compdemocracy.org/faq/
[30] タンのPol.isに関する発言は複数のインタビューで一貫している。P2P Foundation "Democracy Series: Pol.is" (2016) も参照。https://blog.p2pfoundation.net/democracy-series-pol-is/2016/11/30
[31] vTaiwan Uber規制議論の成果。Bertelsmann Stiftung "Trailblazers of Digital Participation: Taiwan's Join Platform and vTaiwan" を参照。https://www.bertelsmann-stiftung.de/en/our-projects/democracy-and-participation-in-europe/shortcut-archive/shortcut-8-trailblazers-of-digital-participation-taiwans-join-platform-and-vtaiwan
[32] vTaiwan: 2015年以降、Uber規制、遠距離医療、フィンテック規制等12件以上の法制化に市民参加プラットフォームとして関与。https://vtaiwan.tw/
[33] Pol.isの技術基盤についてはWikipedia "Pol.is" およびcompdemocracy.orgの技術ドキュメントを参照。https://compdemocracy.org/algorithms/
[34] 台湾マスクマップ(口罩地圖)。2020年2月、COVID-19発生直後に政府がリアルタイム在庫データAPIを公開し、g0vコミュニティの市民ハッカーが72時間以内に130以上のアプリを開発。https://g0v.tw/
[35] Talk to the Cityの技術的詳細は AI Objectives Institute 公式サイトおよび同ブログ "Talk to the City: an open-source AI tool for scaling deliberation" を参照。https://ai.objectives.institute/blog/talk-to-the-city-an-open-source-ai-tool-to-scale-deliberation
[36] T3Cのクラスタリング手法はGitHubソースコード(AIObjectives/talk-to-the-city-reports, scatter/pipeline/steps/clustering.py)に「UMAP + HDBSCAN and GPT-4」と明記。https://github.com/AIObjectives/talk-to-the-city-reports
[37] 「オードリー・タンと考える、デジタル民主主義とPluralityのフロンティア:なめらかな社会へ向かう6つの対話 #5」『WIRED Japan』2025年8月9日、https://wired.jp/article/series-6-dialogues-for-smooth-societies-5/
[38] GovTech東京「ブロードリスニングを技術面から大解剖!『2050年代の東京』に向けた意見募集の舞台裏」note, 2025年1月31日、https://note.govtechtokyo.jp/n/ndcf8d6b35939
[39] 安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】「【地上波世界初】都知事選で使ったブロードリスニングの技術で衆院選を解析してみた」note, 2024年10月26日、https://note.com/annotakahiro24/n/ndd21a8ba3eec
[40] 台湾Joinプラットフォーム。Bertelsmann Stiftung前掲報告書。2022年6月時点で13,853件の提案、289件が閾値到達、登録ユーザー1,050万人。https://join.gov.tw/
[41] チームみらいマニフェストv1.0「デジタル行財政改革」項目。https://policy.team-mir.ai/policies/welfare
[42] Jodi Dean (2009). Democracy and Other Neoliberal Fantasies: Communicative Capitalism and Left Politics. Duke University Press. 同じく Dean, "Communicative Capitalism: Circulation and the Foreclosure of Politics," Cultural Politics 1(1), 2005 も参照。
[43] 同上。
[44] NISHIO Hirokazu「チームみらいの社会実験『しゃべれるマニフェスト』から得られた知見」note, 2025年10月2日、https://note.com/nishiohirokazu/n/nb35e8d526fd4
[45] 安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】「【チームみらい】対話型マニフェスト進化の軌跡まとめ【世界初】」note, 2025年7月8日、https://note.com/annotakahiro24/n/n31abc00c76f3
[46] 同上
[47] 安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】「チームみらい 公約発表会見(書き起こし)」note, 2025年7月7日、https://note.com/annotakahiro24/n/n059dedf32eaa
[48] 安野たかひろスタッフ@チームみらい【公式】「【チームみらい】対話型マニフェスト進化の軌跡まとめ【世界初】」note, 2025年7月8日、https://note.com/annotakahiro24/n/n31abc00c76f3
[49] Evgeny Morozov (2013). To Save Everything, Click Here: The Folly of Technological Solutionism. PublicAffairs.
[50] チームみらい「みらい まるみえ政治資金」2025年10月2日公開。技術詳細はJun Ito「『みらい まるみえ政治資金』を支える技術」note.com を参照。Next.js + Vercel + Supabase構成、GNU AGPL v3.0ライセンス。https://marumie.team-mir.ai/
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